北朝鮮レポート(1) 近代化の前のリアリティを体感するフィールドワークとして

・・・北朝鮮に関する内容は、マスメディアへの掲載ができません。報道関係者の入国はできませんが、私も報道関係者者ではないため、許可を得て入国できています。この記事の内容や写真の転載は不可です。今後のレポートのためにも、よろしくお願い致します。

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中国の丹東(丹东)から北朝鮮(신의주)の新義州に入る際、国境の鴨緑江(鸭绿江/압록강)から見える風景です。右側が丹東、左側が新義州で、対照的な風景です。中国側の丹東が大都会に見えますが、川沿いの景観が良いためか、高層ビルは川沿いにのみ立地しています。そのため過剰に都会に見えますが、それにしても左側、新義州とはコントラストが感じられます。

丹東市街地の賑いは、日本の人口30万人の都市くらいです。中国の「市」は日本の県より大きく(地級市)、市の中に市や区、県があり、このうち区の部分が日本の中核都市、市が県内の地方都市、県がそれ以外の地方、になります。そして「区」の面積も大きいので、区の人口を足しても日本の都市と対等に比較することができません。この話は後述します。新義州市の公式人口は30万人程度ですが、これは日本の30万人の都市と同じ規模です。同等の都市規模の2都市が、川を挟んで対面し、一方は時代を先に進め、一方は時代の進みを止めています。

北朝鮮はどんな所でしょうか。良くも悪くも、世界の潮流に迎合せずに時を止めた、閉ざされた国です。
テレビニュースは有名な朝鮮中央放送のみ、映るのはアナウンサーと領導者や高官で、一般市民は映っても国威発揚の行事のみ。全てが「演技」のようです。日常生活の全てが演技で、「市民は全員無表情で行進し、寸分の狂いもなく規律正しく生き、そうでないと収容所送りなのか」と思いきや、行ってみるとそうでもありません。

人々の表情は豊か。

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光復通り(광복거리)を行き交う小学生の列。何かのデモ行進で、プラカードは「党第7次大会(당 제7치대회)」と書いてあり、政治的な内容ですが、隣同士で歓談する人、しぶしぶ歩く人…色々な表情の人がいる。
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平壌地下鉄の車内。この写真だけ見ると、北朝鮮だと一瞬で特定はできない。ただ、男性のヘアスタイルの統一感で、ここが平壌だと気づく。

市民の顔を見れば、きつい顔をした人もいれば、ゆるい表情をした人もいます。東京も、世界の他の都市も、きっとそうでしょう。

丹東から列車で北朝鮮に入る際、新義州で我々の入国検査で34人の持ち込み品を検査する税関職員も、数十分経ってからゆっくりと検査を始めます。携帯の画像チェックも、機械的に判別しているというよりは、興味ある画像をジックリ見ている、と言ったほうが正しいでしょう。そしてアニメオタクの持つ危ないアニメ画像を見てニヤッとするのです。軍関係の施設や南側の書物等、問題のあるものがあればゴツい表情で削除したり、没収したり、破いたり…と豪快な検閲をします。しかし携帯の中の写真チェック、男性客のものより女性客のほうが検閲時間が長く、私のように人が映っておらず、町並みや道路ばかりを写したカメラは「あぁ、なんだよこれ続くのかよもういいわ」とばかりに確認するのを止めます。そりゃそうです、コースから外れることなく、沿道からの風景を3000〜4000枚撮ってるので、見ても退屈でしょう。

そして多少朝鮮語が話せる私と「朝鮮語話せるのか」「少しだけですよ」「どこで朝鮮語勉強したんだ」「南側の大学で」「どのくらい(期間)いたんだ」「1ヶ月」・・・というやりとりの後、他愛もないやりとりがありました。

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電車が2時間止まった龍川(룡천)駅。たまに鉄道員が行き交うが、みなゆっくりと歩いている。

そして、電車が2時間止まっても、行き交う鉄道員はゆっくり歩くのです。まず、北朝鮮には走っている人というものをほとんど見かけません。歩く速度もゆっくりです。日本でも、東京の人は無表情で歩く速度も早く、地方に行けば行くほど歩く速度もゆっくりになり、行き交う人々の表情も豊かなのを実感しますが、北朝鮮においては「革命の首都」平壌でも、豊かな表情の人々ばかりです。ラッシュ時や人の行き来の多い平壌駅付近は無表情な人が早歩きで歩いていますが、それは東京と同じでしょう。むしろ東京よりは人々に表情があります。喜怒哀楽の表情が、渋くにじみ出ています。

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平壌駅(평양역)前。行き交う人は多く、色々な表情の人がいる。老若男女、明るい服の人もいれば暗い服の人もいる。表情もさまざま。1960年代の様相の人もいれば、現代の様相の人もいる。これは平壌の街の様子と比例している。(バス停は、現在の最高尊厳肝入りの「メアリ射撃館」行きのバス乗り場だが、行き交うのはバスを待つ人ではない。)
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敬臨洞(경림동)バス停。ここに来るバスは、平壌駅(평양역)〜蓮モッ洞(련못동)を結ぶ系統で、市街地を川沿いに縦断するバスだ。官庁街を通るため、渋い男性が多いが、若い女性がいるだけでも鮮やかで目立つ。
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平壌市郊外の兄弟山区域。平壌市はスプロール化が進んでいないため都市化した面積は広くはないが、市域は広く、かなりの面積の農村部を包含している。我々の乗る国際列車を見て、何を思うのだろうか。この豊かな表情は、映画のワンシーンのようだが、これもまた現実だ。農村のようだが、着ている服は鮮やか。都市と農村の二面性を持つこの地域を象徴しているようだ。
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案内員の金太慶(김태경)さんもなかなか豊かな表情であった。二人の娘を持つ平壌市民。

世界の潮流に迎合せずに時を止めた、閉ざされた国。そこから学ぶこと。

世界も100年も遡れば、世界は繋がっておらず、各地域それぞれの発展をしていたことでしょう。飛行機や自動車等、高速で移動できる手段が普及し、企業や個人、貨幣も国境を超えて移動し、さらにインターネットでタイムラグなく繋がるようになった今、世界は均質化しています。どこかで新車が開発されれば、似たような新車が地球の反対側を走り、今や世界どこへ言っても似たような高速道路や地下鉄が走り、似たような機械に囲まれて生きています。

北朝鮮はこの潮流と別の道を歩み、時を止めています。地方は日本の1930年代、地方の中でも中国資本が入る新義州(おそらく羅先なども)は1950年代、平壌は1960〜70年代、と開きがあります。白黒写真でしか見ることのできない、車がおらず大通りの中心を歩行者や自転車が歩いていた時代、3階建ての百貨店や平屋の映画館が街のシンボルだった時代は、我々も長く住み慣れた街でも静止した白黒写真でしか見ることができず、年長者に聞いてもそのリアリティがつかめません。「百聞に一見に如かず」とはこのこと…実際に街が生きている様子を見ると、そのリアリティをつかめます。

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黄海北道(황해북도)開城市(개성시)の市街地。車は少なく、自転車と徒歩の人が多い。
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平安北道(평안북도)定州市(정주시)。徒歩、自転車の他、牛が重要な動力になっている。ほとんど近代化前の様相だが、ところどころ見られるソーラー(太陽光発電)だけは現代だ。

車社会になる前、大量生産の連鎖で社会が回る前、ネット社会になる前のリアルがここにはあり、我々は気付かされることが多々あります。社会は効率良く、多数の人が豊かになる方向に進むため、自然と進む方向は世界中で起こる近代化の流れのほうでしょう。しかし、得るものもあれば失うものもあるかも知れません。私の世代は、失ったものを知りません。それを追うかのように、日本にいても、時々農村を求めるのかも知れません。

そもそも、北朝鮮に「行けるのか」そして「帰れるのか」

北朝鮮に日本人は行けるのか、そして無事に戻れるのか、というのが最も多くいただく質問です。「行けるのか」「帰れるのか」・・・最も基礎的にして、重要なポイントです。

結論を言うと、日本人の9割以上の人が行けて、そのうち10割が帰れます。1割未満の行けない人は、報道関係者と自衛隊関係者、過去に色々あって入国NGとなった人々です。ちなみに韓国人も入国NGです。帰れるかどうか、ですが、日本では拉致問題が広く知られているため、帰って来れない印象があります。過去に非合法的に海から拉致され、帰れなくなった人が多くいたのは残酷な話ですが、現時点で「旅行」というルートで帰って来れなくなった人の報告やニュースはありません。

テロの多い中東やアフリカに比べれば、完全に管理されいてるため安全ですが、とはいえ何が起こるのか分からないのは、海外旅行の常です。安全性は日本よりは低いとしても、中国よりは高い、というのが実情だと思います。実際のところ、中国のほうが緊張感がありました。

なお、北朝鮮側は(外貨収入になるため)日本人の観光を歓迎していますが、現在日本の外務省は(経済制裁しているため、同じ理由で)渡航の自粛を勧告しています。超えにくい関門は北朝鮮側にあるかと思いきや、日本側にあります。そのため中国や欧州からの観光客は比較的多く、案内員も「最近日本人は珍しい」とのことでした。

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事実上のビザである観光証。「出入国事業局」と「国境通行検査所」の印が押してある。

今回の旅行の発端…なぜか鉄道マニアばかりの旅行

さて、北朝鮮旅行の場合は、多くの人がご存知のように、自由行動は許されません。突然行って入国したり、飛行機や鉄道の予約はできず、国営の朝鮮国際旅行社の代理店(中国や日本に数社)を通してツアーに申し込むしかありません。逆に申し込めば簡単に行けます。日本の代理店からだと20〜30万円かかり、かなり高額ですが、中国の代理店からだと15万円程度で行けるのが通例です。

今回の旅行の発起人は、@twinrail氏と@kor151152氏です。10人以上集めると10万円を切るため、Twitterを通じて参加者を募集していたのが発端です。結果、ビザと交通費、宿泊費、食費含めて3泊4日で9万5千円となりました。近いこともあり、かねてから気になる行先でしたが、20〜30万円となると割に合わなかったかったためこれまで行ったことはありませんでしたが、妥当な金額だったので参加を決めたのが、私の参加動機です。発起人には感謝です。

こうして34人が集まります。7割が「多少の共産趣味を持ち併せた鉄道趣味の人々」で、その他は軍事やアニメに寄った、基本的にはオタク属性の強い人々です。平日に亘る旅程のため、大学生が多数。Twitterを通じて集まったこともあり、Facebookを使う人は少なく(むしろ避ける人も多く)、積極的に使うツールはTwitterです。余談ですが、私はこの集団では平均年齢を上げている側でしたが、実年齢より低く見られ「大学院生」に見られていました。実年齢は30ですが、6〜7歳下に見られていたようです。仕事やイベント等では「30」と言うと「思ったより若いですね(37〜8かと思いました)」とも言われるので、上下に振れ幅がかなりあります。私、年齢不詳なんでしょうね。

広告やテレビと異なる、「敢えて言うほどでもない当たり前」を味わいに

どの国も、広告や編集された映像、ガイドブックでは、絵としてはキレイな姿、あるいはデータだけはつかめますが、行ってみないと日常の空気感はつかめません。行ったことのない国でも、行ってみて、食堂でゴハンを食べながら人々の何気ない仕草を見て「ここの人達も、ふつうに生活してるんだよね」と思うことが多々あります。北朝鮮は広告的な編集をしない代わりに、社会主義的で軍国的な、激しいアウトプットをします。他の多くの国で、広告の絵のような日常とは異なる生身の日常が広がっているのと同様、北朝鮮にも日常があるはず・・・それが今回の参加動機です。私自身同じ関心で、あらゆる海外に赴いています。

北朝鮮の一般庶民生活の日常の様子は、安宿緑さんのブログをよく読んでいました。朝鮮中央放送で放送される極端な「明部」と、その他海外メディアで報じられる「暗部」と、ニュースにする案件や問題は多々あれど、その他の「明るくも暗くもない普通の日常」は無視できません。私はこの、少し明るめの灰色の日常に生きている身として、そこから世界を覗きたいと思っています。安宿緑さんの記事の内容も、地元住民からすると何気ないことなんでしょうけど、海外を知るには、こうした「何気ない当たり前」を吸収していくのが自然なのではないかと思います。

地理的なことや、都市や日常が成り立つシステム(交通、商業等)を見て回ったので、そういうレポートをしようと思って、その前に前置き、序章を書こうと思ったら、ビックリするほど長くなりました(汗)。続いて、料理(食レポ!)を紹介した後、本編に入ります。料理はですね、結構おいしいです。

北朝鮮レポート(2) 純朴な美味、それが朝鮮料理。

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