100万人の地図 ―100万人単位に割って見る―

※2006年に制作した「100万人の地図」について、2011年に記事にしたものを、2015年にリメイクしたものです。大まかには人口の変動はないかと思いますが、微細な人口の変動を反映していないことをご了承ください。

その都市の「都会」度は、都市人口の多さ?

「都会」度…と喩えてみましたが、都市の集客力や中心性、街の賑わいは、都市人口の多さで語られるのが一般的です。たしかに、おおよそ都市の人口に比例しますが、完全にそうとも限りません。岡山県倉敷市(47万人)と香川県高松市(41万人)は、人口では倉敷市が多いものの、市街地は高松市のほうが賑わっています。これは倉敷市が合併を繰り返して人口が増えていることと、さらに大きな岡山市の衛星都市として発展しているためです。

このような事情を乗り越えるのは、核都市と周辺市町村をまとめた「都市圏」単位で人口を見るという方法があります。しかし、仙台都市圏の人口(約130〜160万人)と、世界最大の都市圏である東京首都圏の人口(約3500〜3800万人)を比べてたところで、「首都圏は仙台より約30倍人口が多い」という結論が出ても、仙台市街地より約30倍賑やかな東京都心が1つダイナミックに存在している訳ではなく、実態は掴めません。

(※都市圏の定義と人口は、Demographia都市雇用圏の定義を参考にしています)

世界最大の都市圏を目の前に…

さて、「首都圏の人々の生活の感覚、行動パターンを考えよう」としても、3500万人いれば3500万通りあるのです。しかし3500万という大きな数字に挑んでも全貌は掴めません。データとしては咀嚼できない巨体です。一応補足すると、東京を中心とした首都圏は、世界最大の人口を擁する都市圏です。

話は変わりますが、口に入らない大きさの食べ物を食べるときは、口に入る大きさに切り分けてから食べるのが一般的です。3500万人という大きなカタマリを、100万人のカタマリに切り分けることどうでしょうか。「100万都市」(政令指定都市)と言えば、札幌、仙台、広島、福岡…なんとなく”大都市”のイメージがあります。切り分けて35個のカタマリになるのであれば、なんとか数えられそうです。

ここで「100万都市」のイメージがわくとすれば、それと比較すれば良いのですが、誰しもイメージがわくとは限りません。広島市(人口約120万人、都市圏約140万人)、仙台市(人口約100万人、都市圏約130〜160万人)といった都市は、多くの人が住み、地域の中心となり、交通網の結節点となり、百貨店や各種専門店が揃っています。

100万人のカタマリで見る

<凡例>1つの色で、約100万人。

そこで、ただ100万人に塗り分けた地図「100万人の地図」を作ってみました。

グループワークの「5~6人のグループを作りましょう」というのと似た感覚です。任意の市町村をくっつけて100万人にしています。

一般的には、このような地理的情報を扱うのであれば地理情報システム(GIS)を使うのですが、国勢調査の市町村の人口のExcel表を見ながら、都市間のつながりや人口密度の近似したところを手作業でまとめてみました。

1マスが10km四方、1マスの中は「半径5km圏」と考えて良いでしょう。100万人のカタマリが小さければ、人口密度が高く、大きければ閑散としているということです。

特に100万人が1マスの中におさまれば、半径5~10kmだけで100万人集まるので、大きな街ができやすいでしょう。

「100万人の地図」全国編

都市・都市圏の様子を掴む前に、まずざっと全国の様子を見てみましょう。太い罫線が100km間隔、細い罫線が10km間隔で引いてあります。

100万人の地図 日本全国

 こうして見ると、人口密度にはバラつきがあるのが分かります。同じ100万人のカタマリでも、一番大きいのは北海道の東半分だけで、1カタマリで、東西南北300kmに広がっています。これでは簡単に一所に集まれそうもありません。同じ北海道でも、札幌の紫色のカタマリは、小さい罫線の10kmのマス2つ分で100万人いるようです。その周囲にも100万人が控えています(黄色いエリア)。

北海道以外でも、東北では仙台、中四国では広島に、小さなカタマリがあります。半径20kmくらいの範囲に100万人が集まると、そのくらいの都会が出来上がる、ということです。また、首都圏や京阪神では、このカタマリの粒が見えないほどです。それでは、首都圏や京阪神を見てみましょう。

「100万人の地図」東京首都圏編

この地図は、東京から半径100km以内の地域を拡大したものです。

100万人の地図-東京首都圏100km

冒頭で、首都圏は3500〜3800万人と述べましたが、確かにこの地図の中に、100万人のカタマリは30個以上はありそうです。小さな100万人のカタマリ(人口密度の高いエリア)が広範囲に広がっています。

首都圏では50km以上の通勤・通学は珍しいことではありません。神奈川県平塚市、埼玉県鴻巣市、茨城県土浦市、千葉県市原市といったところから東京都心に通う人は多く、これらの都市からは東京方面への通勤電車が10〜20分間隔で走っています。

とはいえ、東京都心のカタマリと、その外郭のカタマリでは様子が違います。詳しく見ていきましょう。

100万人の地図-東京首都圏-東京都心

東京都心

上の図で、真ん中の100万人を見てみましょう。これがほぼ山手線の内側と重なります。この中に「東京」と言われて想像するものの6~7割が入ってきます。(千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、豊島区、合計107万人)→街で言うと、日本橋、銀座、秋葉原、六本木、新宿、池袋が入ってきます。これで100万人を超えてしまったので漏れてしまいましたが、渋谷も同様の都心の1つです。

この100万人のカタマリは、全国の他の100万人のカタマリとは大きく異なり、いくつもの賑やかな街があります。なぜでしょうか。答えはその周囲にあります。

100万人の地図-東京首都圏-10km外郭

東京都心 10km外郭

「東京」は山手線の外にも広がっています。関東大震災以前は牧歌的な郊外でしたが、それ以降住宅地化が進み、都心並かそれ以上の人口密度となっています。これだけ100万人のカタマリが多いことに驚かされますが、もう1つ驚くのが小さな街が多いことです。例えば、練馬区と板橋区を足すと120万人を超えますが、「100万都市」でイメージされるような、拠点となるような街はありません。せいぜい大きいなヨーカドーがある程度です。隣の中野区、杉並区も、個性ある小さな街は多いものの、これだけ人がいる割には小さくまとまっています。

こうした地域からは、都心まで10kmもありません。日常的な買い物を、地元の商店街がひしめく街で済ませ、必要なものがあれば気軽に都心へと向かうのです。つまり、東京都心の賑わいは、その外郭の、多くの人々(ここでは700万人)があてにしていることで成り立っています。

100万人の地図-東京首都圏-10〜20km外郭

東京都心 10〜20km外郭

さらにその外にも、人口密度の高い100万人がひしめいています。
※図の右側、千葉県浦安市、市川市、松戸市、埼玉県三郷市、草加市もこれに該当します。しかし、下で紹介する「30km外郭」と同じグループに括ってしまいましたので、ここでの紹介を割愛します。

東京都23区を外れ、神奈川県、東京都多摩地区(=23区外)、埼玉県が入ってきます。依然として人口密度は高いものの、10km外郭との違いは、時折まとまった街が出現することです。川崎や吉祥寺といった個性ある大きな街が出てきます。東京都心から少々離れているため、都心人々が流出しにくく、人口が多いため自立した街ができてくるためです。

離れているとはいえ10〜20km、電車でも10〜20分の距離なため、川崎のように東京と横浜という大都市の中間で以前から人口が多かったか、吉祥寺のように東京都心にない魅力があるか、何かしらの理由があって街が大きくなっています。

100万人の地図-東京首都圏-20〜30km外郭

東京都心 20〜30km外郭

首都圏の驚くべきところは、さらにその外にも多くの人が住んでいることです。
ご覧の通り、カタマリが少し大きめなので、上で挙げた地域よりも人口密度は低いですが、それでも全国的に見れば人口密度はかなり高いほうです。

ここまで都心から離れると、東京23区の人から見ると「きっと田舎だ」と思う人が多いようです。そう思う人に限って、この地域をよく知らないことも多いのです。確かに沿線には住宅の合間に畑が広がることもありますが、なぜか大きな街がたくさんあります。横浜は別格ですが、町田、立川、大宮、柏、船橋、千葉といった街は、東京23区の「1回り外郭」の街よりよほど賑やかで、多くのものが揃う、第二の都心と化しています。

こうした地域からは、都心までの距離が30km前後離れており、電車で都心に行くにも30分以上かかります。少々遠い東京都心に行く前の交通結節点で、既に100万人が集まり、そこが大きな街になると、自立した第二の都心が出来上がっていきました。こうした街が出来上がったのは国内では首都圏のみで、高度経済成長で人口が増加した1960年以降の傾向です。

ざっと数えただけでも、1200万人…東京都23区よりも多数の都市生活者がいます。

東京都心 30km外郭のさらに外側

また、この外にも注目してみると、ここが大きな街となる理由も見えてきます。3回り外郭よりさらに外は、人口密度が大幅に低くなります。

横浜は、「東京の郊外」とは言えないほどの中心性を持っています。その外側(三浦半島、湘南、厚木等)は引き続き賑わいを見せていますが、それ以外の地域では、さすがに半径20kmでやっと100万人を集められるくらいの人口密度のため、人は集まりません。したがって大きな街は生まれません。

たとえば、千葉県では千葉市以南の房総半島全体で100万人になります。木更津そごう、茂原そごうが開店してまもなく閉店して話題になりましたが、南北60kmで100万人では、とても3回り外郭の地域と同様に人が集まるとは思えません。100万人ごとに区切ってみると、そういったことも見えてきます。

この、30km外郭の外側の100万人の人々は、1回り外郭の人々が都心を目指すのと同様に、まず手近な大きな街として、30km外郭の街(郊外都心)を目指します。埼玉県北部の人々にとって大宮が身近であるように、30km外郭の街はその後背の数十kmが影響範囲になっています。

100万人の地図-東京首都圏-横浜中心

横浜都心・郊外

横浜周辺は、勤務先や学校が東京でない限り、東京とほとんど関わりを持たない人が特に多いエリアです。買い物から遊びまで、東京に劣るものはほとんどなく、横浜を通りすぎてわざわざ東京に行く必要はありません。

そのため、横浜都心(おおよそ黄色のエリア)の周囲を中心に、横浜の影響範囲は広く、その範囲は、三浦半島・湘南にまで及びます。特にこうしたエリアでも、東京まで行く際に横浜を通る東海道線、横須賀線、京急線、相鉄線沿線では横浜の影響力が強く、横浜を通らない小田急線、田園都市線沿線では、その影響は弱い傾向はあります。特に横浜の影響力が弱い川崎市北部を捨象しても、500万人以上が横浜の影響範囲にあります。

「100万人の地図」京阪神編

同様に、京阪神も見てみましょう。
この地図は、上記首都圏のものと同縮尺で、大阪から半径100km以内の地域の地図です。

100万人の地図-京阪神

見てみると、半径50km以遠の地域の人口が少ないことが分かります。これは東京の拠点性の高さ以上に、関東平野と異なり平地が少ない影響が大きいでしょう。奈良県では北部の平野に人口が集中し、南部は三重県南部と合わせて初めて100万人に達するほど人口が少ない地域です。この地域では十津川郷や熊野古道が有名ですが、この2つから連想されるように、急峻な山々が続く地域です。

京阪神の都市部の100万人のカタマリも、数え方によりますが、おおよそ15~18個くらいのカタマリがあります。1500~1800万人の都市圏だということが推測できますが、Demographiaの定義でも都市雇用圏の定義(大阪、京都、神戸都市圏の合算値)でも、1700万人となります。首都圏(3500~3800万人)と比較すると、その約半数の人口を擁する大都市圏とも言えます。

100万人の地図-京阪神-大阪都心

大阪都心

大阪の中心部では、大阪環状線内とそれより海側で100万人のカタマリになります。これが京阪神の中心にもなっている大阪の都心にあたります。梅田、心斎橋、難波といった街や、通天閣をはじめとした大阪の観光地もここに含まれます。ここも東京と同様、いくつもの賑やかな街があり、首都圏と同様、周囲に多くの人口を擁する都心として成り立っています。

100万人の地図-京阪神-10km外郭

大阪都心 10km外郭

首都圏で見たのと同じく、都心の周囲に、人口密度が高い100万人のカタマリが取り囲んでいます。日常使いの小さな街が点在し、大きな街が必要なときは頻繁に都心に行く人々が住んでいるのも同様です。首都圏では東京都23区の山手線より外側が該当していましたが、大阪では大阪市そのものの面積が狭いため、その周囲の堺市や東大阪市、豊中市等がそれにあたります。

また、兵庫県ながら大阪市に近接している西宮市、尼崎市も同様です。西宮市は、古くから郊外として発達し、地域のターミナル機能も持ちながら極めて都市的な郊外型ショッピングセンター(阪急西宮ガーデンズ)がある点から、東京の二子玉川(世田谷区, 玉川高島屋SC)と共通するところがあります。

100万人の地図-京阪神-20〜30km外郭

大阪都心 20〜30km外郭

首都圏同様、20~30km外郭には、都心より少々人口密度が少ないながらも人口が集中するエリアが広がります。首都圏よりも人口密度が低いこと(山地が多く人口が集中しない)、京阪神の地図の冒頭で書いた通り半径50km以遠の地域の後背人口が少ないことから郊外の都心が発達しにくく、京都府や兵庫県では、郊外が発達する前から都心機能を持っていた京都、神戸が拠点性を持っています。そのため首都圏のような郊外の都心は形成されませんが、10km外郭と同程度のコンパクトな街が点在しています。

100万人の地図-京阪神-京都・神戸中心

京都都心・神戸都心を中心とした郊外

首都圏では東京を中心とした都市の拡がりとともに、横浜を中心とした都市の拡がりを見てきました。京都、神戸は、横浜以上に、「中心都市(大阪)の衛生都市」とは言えません。両都市とも、都市圏の中心機能を持つ大阪に近い距離にありながら、通勤通学や買い物等で大阪への依存性は低く、京阪神の中でも独立した都市圏を持つ面もあります。

京都の都心は黄緑色のエリアの南部、鉄道が集中しているあたりです。都心部にはそれなりに人口が集積し、北部の人口は少ないものの、都心部の区に編入されているため、100万人で括るとその面積が広くなってしまいますが、決して京都の都心が閑散としている訳ではありません。京都府、滋賀県、奈良県も京都の影響範囲ですが、都市雇用圏の定義では267万人と定義されていますが、100万人のカタマリが3つ(300万人)と近いのが分かります。

神戸の都心は濃い緑色のエリアです。山地を含むものの人口が集積しているのが分かります。黄緑色のエリアは、うち神戸市北区が神戸の郊外ですが、その他はどちらかというと大阪の郊外の要素が強く、青色・黄緑色のエリアは大阪・神戸両者の郊外となっています。都市雇用圏の定義では、こうしたエリアを含まずに243万人となっています。

総括「100万人のカタマリ」という見方

いかがでしょうか。
ここでは、都市機能や都市圏、人口規模を論じているのではなく、100万人単位のカタマリで人の集まりを見る、1つの簡単な目安やきっかけをお見せしました。モノサシを揃えると、特徴がよりクリアに見えてきます。

100万人の地図-ソウル首都圏

地図と統計さえあれば、この見方は海外でも応用できます。
日本と近い状況にある韓国・ソウル版を作ってみました。Demographiaによると、ソウル首都圏の都市圏人口は2300万人で、ちょうど東京首都圏と京阪神の間の規模になります。

100万人の地図を見ても、確かに20数個の100万人のカタマリがあるのが分かります。特に韓国で特徴的なのは、北朝鮮との軍事境界線があることですが、それがソウルの近郊(100km圏内)に迫っているということです。実質的に人々の行き来が遮断されていることに加え、近年の正確な統計がないため、この図では人口をプロットしていません。

境界線近くは人口が少ないものの、ソウル近郊になると一気に人口密度は増え、高層アパートが連なる都市の景観が広がります。都心部は東京や大阪のように中心となる100万人のカタマリを定めることは難しく、図中だと少なくとも2~3のカタマリに都心機能が分散しています。

ここで、ソウル首都圏の詳しい解説は割愛しますが、首都圏か京阪神に馴染みがある人であれば、その感覚を100万人の地図に照らし合わせて落とし込み、その目で馴染みのない地域(例えばここではソウル)の地図を見ることで、知らない土地の感覚を掴む手がかりになるかと思います。

縮尺を押さえた上で、地図と統計さえあれば簡単に作れる100万人の地図。人口の情報に触れる機会があれば、このような形で「自分の感覚で掴む」ことが可能です。ぜひ、世界を掴む手がかりに、ご活用ください。

SNSでシェアする。