北朝鮮レポート第2回、気になる食レポです。
さて、北朝鮮に行くと、一番多い質問は「行けるのか」「帰って来れるのか」です。
次いで多いのが「洗脳されるのか?」ですが、それはありません。ただ、現地民は日本で言う神社仏閣以上の宗教の如く、精神的支柱にしている(させられている)面は大きいでしょう。旅行ルートでそういった史跡を回るので、その一端をトレースすることになりますが、ただ「無礼のないように見て回る」程度で、特に思想教育等はありません。
・・・北朝鮮に関する内容は、マスメディアへの掲載ができません。報道関係者の入国はできませんが、私も報道関係者者ではないため、許可を得て入国できています。この記事の内容や写真の転載は不可です。今後のレポートのためにも、よろしくお願い致します。
北朝鮮レポート(1) 近代化の前のリアリティを体感するフィールドワークとして
北の料理のお味は?
その次に多いのは、「料理はおいしいのか?」です。結論から言うと「おいしい」です。いやはやまた食べたい。
個人的には南(韓国)よりは好みの味ですが、どれもおいしいと思います。
既に多くの人に知られている韓国料理(南)と比較するとわかりやすいですが、南は「パワーつけてナンボや!このくらい辛くないと男前ちゃうで!」とばかりに、辛味が苦手な人には暴力的に感じるほどの辛さがありますが、北は、そこまで辛味はありません。
南が「具も香辛料もたっぷり入れたるで!どや!旨味凝縮しとるじゃろ!」とすると、
北は、淡々と「素材の味を活かして、良きものを、良きように」という感じです。
辛い味を極めたい人、濃い味付けが好きな人は、南のほうが良いでしょう。(そして是非、屋台へ行きましょう。)
私はその対極の志向なので、北の味付けはビンゴでした。上品でシンプルな味付けは日本人には合うのではないかと思います。
ビビンバの本場は全州(南)ですが、冷麺の本場は平壌(北)、参鶏湯…の鍵となる高麗人蔘の本場は開城(北)、ということで、ルーツとしては意外と外せません。朝のホテルバイキングは写真をちゃんと撮ってないのでそれ以外の昼と夜について、食レポ、始めます。(初めてなんですけどねこういうの〜)
1日目 夜
まず、「アレ?色がおかしいゾ?」と思った方、あなたの色彩感覚は間違っていません。店内は何故か赤、緑、青のLEDで照らされており、青や緑の下にいると、食べ物が少し変わった色に見えるという現象があります。中身は超おいしいんですよ!さて、この中でも圧倒的においしいのがお肉。お肉そのものの味がシッカリします。そしてビビンバ(비빔밥)ですが、かなり日本人好みの味と言えましょう。
南ではコチュジャンに苦しめられ、光州の店でも「コチュジャンなし(고추장 없이)で!」と何度も言って、「本当にいいのか?コチュジャンなしだよ?」とオバチャンに言われ「日本人だから辛いのが食べられなくて…(일본사람이니까, 매운 음식을 먹을수 없어서…)」とか何とか言って、コチュジャンを別皿にしてもらったのですが、それでも別皿でやって来るのです。
最小限の上品な味付けで、素材そのものの味を楽しみたいのに・・・等と思っていた私に渡りに舟、まさにそういうビビンバでした。舞茸がおいしいんですよ。そういうセンス、いいですね。
観光記念品商店
(大抵1Fが商店、2Fが食堂になっているパターンが一般的です。1Fに食堂の店名が書いてないため、これが正式な店名なのかどうか分からない)
平壌市万景台区域
光復通り沿道南側/「光復地区商業中心」斜向かい
2日目 昼
平壌から南東に進むこと150km少々、38度線より南(だが現在の軍事境界線よりは北)で、ソウルからの方が近いのが開城です。高麗時代の王都として栄えた古都である。南で言うところの慶州的ポジションだろうか。開城は高麗人参の産地としても有名で、参鶏湯を形成する重要な材料でもある。韓国料理/朝鮮料理において最も好きな料理は参鶏湯、である私としては最も力点の置かれるところですが、それにしても高麗人蔘の多いこと多いこと(漢方薬で、高価なのですよコレ)。
一部を引っ張りだしたものです。いやはやこれだけの鶏と高麗人参を使うとはかなりの贅沢品。(一般的にはもっと細い高麗人蔘が少し入っているだけです)素材がおいしいので、噛めば噛むほど、うまいうまい。
同行した人の中には「ニガ―ッ、食べられなーい!」と嘆く人もいましたが、漢方薬、良薬は口に苦し。ゴボウに少し苦味を足したような味で、私は好きなのでボリボリいただきましたとさ。悔しいのが、最も量が多く、参鶏湯…の手前にある定食のほうを完食できなかったこと。これもおいしかったんですけどね!
しかし店名は何故か「平壌冷麺食堂」。ナゼだ。
平壌冷麺食堂
黄海北道開城市
成均館付近
2日目 夜
案内員の金錦淑さん、「今夜は、炒めご飯です」…炒めご飯?チャーハンではなくて?チャーハンではないらしい。
さて、実際に出てきたものが右の写真。かやくごはんというか混ぜごはんというか、そんな感じです。私はノンアルコーラー過激派なのでビールが飲めませんが、ビールもおいしかったようです(大同江麦酒)。この炒めごはん、素朴でイイ味です。
※店名不明(チルゴル地区)
光復通り沿道北側/「万景台少年学生宮殿」付近
いやいや、朝鮮料理…「辛くない」が第一印象ですが、全体的にあっさりしています。もっと言うと?・・・上品で「純粋で純朴」、これに尽きます。
1日目では気づきませんでしたが、2日目の夜にようやく気付きました。連日食べている料理に異様な安心感があるのです。もはや「外食」ではない。まさに「混じりっ気ない、手作りの味」なのです。一部の炭酸ジュースは、いかにも「超加工食品」風味で微妙な味ですが、それも原始的でわかりやすい味。昭和の駄菓子と似ています。しかしそれを除けば家庭の味と同じ安心感。家庭の味、と思って食べるとなかなか豪勢な料理なのです。そして、我々が想像する以上に、手間をかけていることが分かります。
ここでもやはり、近代化とは何か、を考えさせられます。私は近代化の後、機械的大量生産の連鎖で社会が回った状態で生まれ、物心ついた頃から加工食品やコンビニがありました。そしてお金をかければ食べられるプロの味は、それを前提に作られるため、洗練された味へと進化します。また、食品の工業化の反動で、自然食品やオーガニック食品ブームも発生していました。今食べている料理の味は、こうした一連の流れが始まる前の味だ、と直感します。
ホテルのアイスクリームや、クリームパンも家庭の味。カスタードクリームも少々白あんのようなまとまりで、トロ〜リしている訳ではありません。手作りするとこうなるんですよね。
日本でも戦前は、手の込んだ料理が行き渡るのは一部の人に限られていたことでしょう。手の込んだ料理を作る過程は、近代化によって、人手をかけず機械的に大量生産することが可能になり、加工食品から調味料までコストダウンした結果、多くの人に行き渡るようになったことと思います。そうです、この国は食糧問題を抱え、十中八九、こうした料理は隅々まで行き渡っている訳ではありません。
限られた人の腹と味覚を満たす近代化前の”食”と、効率的に多くの人の腹と味覚を満たす”食”。後者のほうが全体利益には繋がるため、時代はおのずと後者に進みます。しかしその代償として、味覚を騙し騙しやり過ごし、摩耗する人も少なくありません。アメリカの、香料と濃い調味料がふんだんに使われた、素材の味のしないジャンクフードを食べると、この流れの行く末を感じます。(それで満たされる人は、それで良いのですが。ただ異様に肥満人口が高いのは気になります。)
ところで、近代化を経ても、家庭料理は続き、(母に感謝ですが)私も純朴な家庭料理の味で育っています。そのため素材の味を感じる味覚は持ち合わせていました。朝鮮料理がおいしい、というのは多くの人も言うところで、私も実感しましたが、それ以上に「素材の味をしっかり味わえる」のが魅力なのだ、と実感しました。いまのうちに行ったほうが良いですよ。
3日目 昼
ほら、素朴でしょ(左の写真の丸い焼き物)。これがおいしいんですって。具を盛り込んだ南のチヂミ(パジョン)に比べて、あっさりしてますが、美味。何故かここにいらっしゃった茶碗蒸しは純日本風です。で、本題は冷麺のほうです。やはりコレも本場はこちらですが、蕎麦粉とじゃがいもでんぷんで作られた麺で、あっさりしてまして、つるりと完食。これは夏食べると夏バテ予防になりそうですね。
ソジェガク(西済閣、西祭閣、徐済閣、徐祭閣…か漢字は不明)
建国駅・普通江駅北西方向
3日目夜
他にも色々な食材が並んでおり、肉と魚と選べましたが私が選んだのは魚。いや迷いましたよ、連日出てくるお肉はどれもおいしいので。ただ魚をまだいただいてなかったな、と。こちらは鍋料理で「チョンゴル(전골)」と言いますが、なんというか見た目は完全に日本の鍋ですね…。ここから唐辛子や塩等、好みの調味料を足して各自で仕上げる訳ですが・・・
完全に和食のような何かが出来上がりました。いや〜落ち着く味ですね〜。
清流観光記念品商店
平壌市大同江区域/紋繍遊泳場南方向
お店一覧
食レポってこんな↑テンションでいいんですかね(さぐりさぐり)・・・
ところで北朝鮮旅行で、このように店名と位置情報、ならびに地下鉄&路面電車アクセスを掲載することはほぼ無意味に近いので(案内員&運転手つきのため)、運良くこれらの店にたどり着けば良し、と思っていただければと思います。
さて、高麗ホテルの惣菜コーナーがおいしそうだったので、帰りの列車のゴハンにしようと思って買ってきました。キムチ餃子とのり巻。やはりおいしい。
そして私は急に近代化の波に飲まれます。中国に入り、一気に数十年時代が進みます。高速鉄道(新幹線)車内で売られるレンチン弁当。日本の駅弁のような「名物」感はなく、生産効率の良さそうなレンチンごはんです。味はシンプル、かと思いきや、化学調味料にまみれた後味の悪い味。肉の味もほとんどしません。
北朝鮮で、素材の旨味を味わっていただけに、落差が激しく、この後テンションが下がったり結果(たぶん関係ない)、次の列車を逃し、6時間の無座(座席のないきっぷ)の夜行を体験しました。中国過酷ですわ・・・。
しかし、中国も全てがまずい訳ではありません。異様においしい料理にも出会います。丹東の街で、中国語と朝鮮語の案内が出ていた食堂があり、文字通り中華料理と朝鮮料理の両方が食べられるのですが、どちらも美味。犬肉を浸かった補身湯(ポシンタン)は、犬肉の旨味を出しつつ、しつこさは抑え、餃子や炒飯もシンプルながら洗練された美味。チャーハンは今まで食べたチャーハンの中で最もおいしかったのでは、と思うほど。
補身湯、こんな感じです。これも超絶美味。
「安東印象健康小厨房」というお店ですが、「安東」とはここ丹東の旧称。うちの祖母(その父が鴨緑江水力発電勤務、1947年まで新義州在住だった引揚者)もよく「安東(あんとう)でロシア人からピロシキを買って、国境の橋を歩いて渡った」と言ってました。当時の国境とは日本(朝鮮)と満州(中国)で、比較的自由に渡れたようです。日本人だけだったんですかね;そのあたりはよく分かりません。
安东印象健康小厨房(安東印象健康小厨房)
丹东市振兴区六纬路和二经街交叉路口(丹東市振興区六緯路和二経街交二叉路口)
というわけでやはり長くなりましたが、純粋に朝鮮料理を味わう目的で北朝鮮旅行に行くのも良いかと!
なかなか本編に入らない感じもしますが、第3編は「スローガンと市民、労働は人力」(仮題)の予定です。第4編以降で地理的な事象やシステム(交通等)を追っていきます。一体第何編までになるんだか。