北朝鮮レポート(5) 平壌の商業施設

小出しで続く北朝鮮旅行シリーズ。
第5弾は商業施設編をお届けします。

・・・ちなみに一連のこのシリーズの中で、ツアーで案内されているのは食事だけで、それ以外は全て、途中の風景から見えたものと他からの情報、統計や近似性から読み解く推測を含むもので、解説なき「途中からの風景」の情報です。

ツアー中、時折(建国以来の出来事の)説明がなされるのですが、あまり記憶に残る情報はなく、案内員氏との個人的な会話のほうが記憶に残っています。

例えば…
・女性の晩婚化が進んでおり、案内員氏(たぶん50代男性)「うちの娘(20代後半)もなかなか結婚しない」と嘆く
・男性の喫煙率は8〜9割、だが近年若い世代を中心に喫煙率は下がっている
・単身者用の住宅はない。遠方から学校に入る場合は寮があり、その後就職となっても寮がある。その後結婚となると会社から充当される住宅に住むことになる(ある程度地域は選べる)

こういう「日常の情報」こそ、知りたいところですよね。
ただ、我々も日本のこのような日常の情報って、普通すぎてあまり説明することはありません。
案内員も、聞けば答えてくれますが、重要な話とは思ってないのでしょう。そりゃそうだ。

…さて、就職後結婚まで、どんな生活かが気になるところです。
学生寮、と言うとドミトリーのような部屋(4人1部屋とか)にゴハンつき、なんてイメージが湧きますが、社員寮もそう…なのでしょうか。自炊する人はいるのでしょうか、食料品の物価はどのくらいでしょうか、と聞きたいことはあったのですが充分には聞けず。

そうなると当然、商業環境が気になってきます。(もともと私、そこそこ商業施設好きですし)
案内員氏「集合住宅の1Fが商業施設で、食料品店、洋服店…と各種専門の商店が入っている」と。

そうだろうな、とは思いましたが、じゃ実際どんな店があるのか見てみましょう。
何が惜しいって中には入れないこと。中に入れるのは観光客向けの土産店や、食堂に併設された売店がチラ見できるくらいです。普通の食料品の物価が知りたい・・・

一般的な平壌の集合住宅と商店の構造

これが平壌で一般的な集合住宅と商店の構造です。
外装や店名は目立たず、スローガンと、なぜか巨大な花の絵が目立つという景観。
ちなみにこれは22時半くらいなので、当然?営業終了してますし人はいません。(路面電車は動いています)

では、昼の様子を見てみましょう。


普通江区域の光復通り沿道です。こちらは「プルグンゴリ(赤い通り)水産物商店」と書いてあります。魚屋ですかね。…人がいませんね。
左隣は小さな文字で「国家芸術公演運営局 普通江地区普及所」と。何してるんだろ。気になる。


こちらは大きな字で「洋服店」。立派な服が並んでいますが扉の重厚感…。洋服職人の注文服屋のような雰囲気ですが、日常使いではなさそうです。 でも人は来たり見たりしている模様。


微妙に躍動感?のあるおもしろいフォントですね。
漢字で書くと「便宜收買商店」…ちなみに「便宜店」は南側(韓国)ではコンビニの意。「收買」はお買い上げの意味。まぁでも外から見る限り雑貨屋さんでしょうか。植木にぬいぐるみ…なんかおもしろそうなんですが、人がいない・・・。

平壌市街地の全体像

平壌市街地の全体像です。ちなみに「平壌市」域はとてつもなく広く、平壌っぽさのかけらもない農村も含まれるのですが、都市生活を送ることができる実質的な平壌のサイズはこのくらいです。

さて、今回紹介する商業施設の全体像です。
さきほどの写真は普通江区域(区域は日本・韓国で言う区)で、これから紹介するのは万景台区域の光復地区です。また、中区域の万寿台地区も商業環境的には注目です。

エリートニュータウン、万景台区域 光復地区の商業施設

さらに郊外の万景台区域、地下鉄の終点光復駅前ですが、商業施設単体の建物もあります。

1F左が薬局、右が「総合修理」、上(2F)が「チルゴル(このあたりの地区名)朝鮮服店」・・・
総合修理って何を修理してくれるのだろう・・・


1F左が「果物野菜商店」、右は豆腐専門…は次の写真に続くので次の写真参照として、
2F左が「美容院」、右が「写真館」です。
さきほどの水産物商店が魚屋だとすると、こちらは果物もある八百屋。
構造もバリエーションも、日本の公営団地の商店街と似ています。

しかし、さすが選ばれたエリートの郊外ニュータウン、万景台…。写真館なんてあるんですね。
(でもやってるのか…?)


左が「豆腐専門食堂」、右が「食料品商店」、上が「理髪館」・・・
食料品商店と食堂の物価が知りたい・・・
八百屋、魚屋と被るモノなのかそれともそれとは違う食料品なのか・・・

たぶんですが、食堂の物価は高いのです。
案内員氏によると、外食は高麗ホテルの物価の半分くらい、とのことで、高麗ホテルの物価が日本のホテルの半額くらい(つまり日本の一般的な食堂や喫茶店と同じくらい)で、その半分らしいのですが・・・300〜400円(300〜400ウォン)でゴハンが食べられたり、2000円(2000ウォン)くらいで夜は飲み食いできたりするんでしょうけども、それって現地物価からするとかなり高いなと。(偶然にも1円=1北朝鮮ウォンくらいなので大変計算しやすい)

地下鉄・路面電車・バスの運賃が均一5ウォン(5円)なので、それと比べるとかなり高額です。平均所得や経済規模が韓国の10分の1とも20分の1と言われており、5円 × 10 = 50円…これは韓国の電車代、バス代より安い…20倍するとちょうど良い額になります。

そうすると300円のゴハンは…300円 × 10 = 3,000円…のランチか。6,000円のランチかも知れないのか。

社会主義国家ですが、この国はかなり格差があると思われるので、これを「300円のゴハン」として簡単に払える人もいれば、我々にとっての「6,000円のメシ(無理だ…)」と思う人もいるでしょう。だからこそ隣の食料品商店の物価が知りたい。


ゲームセンターのようなフォントですが食堂です。

「チルゴル(このあたりの地名)食堂 商店」と書いてあります。

そう、食堂には商店がついているのです。


こちらは夜に我々が入った食堂ですが、「観光 記念品 食堂」と書いてあります。2Fが食堂ですが1Fが商店。


これまで紹介した商店は人がいない…というよりかなり暗いのですが、ここだけはかなり明るくてナウい感じです。手作りと思われるハートマークの切り抜きも印象的ですが、流行を取り入れた(ある種資本主義的な?)内装も商品群も要注目です。

光復地区の中心的商業施設、その名も「光復地区商業中心」

さきほど光復地区の昼の商業施設の写真を紹介しましたが、その建物の右には中心的な商業施設があります。その名も「光復地区商業中心」(中国の簡体字で併記されてもいる)。外から見ると商業施設に見えないんですが、中は結構賑わっているとか…?

バスや路面電車で何度かここの前を通りました。そのたびに「あの光復地区商業中心!行きたい」と思いましたが、同行する人々の大多数は鉄オタ(であまり商業施設には関心を寄せない)ということもあり、一人で「ウオー!」と盛り上がっておりました。

中には入れないので、共同通信とAFPの動画をご覧ください・・・


うおお、これはまさにイ○ー○ーカドーのような・・・

ちなみに平壌都心部の金日成銅像がある万寿台の再開発では高層マンションが立ち並び、その下にもこのような高級スーパーがあるようです。エリートチルドレンに英才教育と芸を施す「少年学生宮殿」があるのも万寿台と万景台の2箇所、2大エリート地区、なのかも知れません。最近は「未来科学者通り」という再開発スポットもあり、こちらも高層マンションが建っているので、ここもそんな地区になるのか、ならないのか…(南端が川、北端は再開発できなさそうなので、それ以上の拡がりが難しい)

きっとここで市場が発生する

では商業施設から離れて・・・


こちらは商店ではありませんが、これまでと異なり、人が多数歩いています。
小さな小屋は商店か?それこそ非公式な市場はこういう所で発生しそうだ…と思ったので撮りましたが、実際のところどうなんでしょうね。

平壌の旧来の「百貨店」


一方、こちらは総合的な品揃えを誇る「平壌駅前百貨店」。
百貨店はオーダーすれば行けないこともないらしく、行ったことがある人が動画を上げてたりしますが、人はあまりいないようです。(動画は駅前ではなく第一百貨店…通称「一百」)

こうして見ると、今平壌で起こっていることって、1970〜80年代の日本の地方都市で起こっていたことと通じます。古くからの地場百貨店(現代のいわゆる百貨店ではなく、地方都市でたまに残っている3〜4階建ての、ヨー○ドー未満の総合商店)と、商店街の個人営業の店は商売っ気がなく人が遠ざかり、ダイエーやヨーカドー(さっきまで○で隠してたのに…)のような総合スーパーが台頭し、そちらに客が集まる…そんな段階です。

日本では(南側の韓国もそうですが)国民全体の所得が上がりました。つまりは首都だけでなく地方でもこの「総合スーパー化」が進み、(物価的に)ほとんどの国民がそこで買い物できるようになった訳ですが…動画にもあったように、この国ではかなりの格差があるようです。このまま時代が進むと、平壌の一部階層だけが、2000年代以降の「総合スーパーからショッピングモール」化を果たし、地方だと旧来の百貨店や専門商店…すらない状態のまま続くと思われるので、国内で浦島太郎状態になりそうです。


では最後にアウトドアな店を。ガソリンスタンドです。「燃油販売所」って言うんですね。(南は「注油所」)

平壌の商業環境のまとめ

競争がない(というか購買力がある市民が少なく、市場が極めて小さい)ことと、外国の知見や技術、文化を入れることに制約があるため、時代の進化は止まっていたと言って良いでしょう。とはいえ、平壌市民の富裕層に向けて、今で言う大型スーパー(動画参照)が生まれたのは、一つの時代の進化だったと思います。ただ、それがせいぜい1〜2店と言うのが、平壌市民の富裕層の規模、割合を示しているようにも思えます。

より満足のいく物品を、求める相手に届ける工夫を、個々が自由に試行錯誤することは、物品を授受する双方の利益になり、やがて多くの富を得ていく…というのが、商業というか市民生活発展の根源だったでしょう。富を得た人の排他的な既得権益が強まると、資本主義への反感が強まり、社会主義が生まれたものと思います。社会主義は最初の試行錯誤、発展の芽を潰したのだな…とも思います。
 
基本的には自由主義ながら格差解消の施策を補完した欧州型の国は、多くの人が満遍なく生活を満たすことに繋がり、社会主義はもともとの理想とは逆行して、発展の芽を潰し市場を縮小させ、今や東アジア最大とも言える激しい格差を生んでいます。

しかし、平壌以外の都市はほとんど見られなかったので、平壌以外も気になるところです。
どなたかリアルな北朝鮮商業施設情報がありましたらお待ちしております。

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